自由な経済活動を阻害する法律

議論が深まらないのが不思議で、異議を申しているのはイオンの社長ぐらいでしょうか。

何かと言えば消費税増税が実施された後の

「消費税還元セールの禁止」

の特別措置法。
総務省通達ではなく法律で規制しようというトンデモ法です。

安倍政権も100日を経過したので、批判すべきは批判します。

記憶に新しくもない古い話ですが、前回の消費増税後、冷え込んだ景気に覚える閉塞感を打破するかのように、イトーヨーカドーが放った伝説の販促企画が

「消費税還元セール」

でした。レジで会計時に

「それでは合計金額より5%お値引きさせていただきます」

とレジキーが押下され、減額された合計金額にお客はカタルシスを得て、思わず笑みがこぼれます。ざまぁみろと、当時は天下御免の悪役だった自民党政権へ一矢報いる気持ちになったものです。

そして各社が追随します。販促企画に版権はありません。特許をとっても認められる前に効力が薄れるので、みなでパクリあいます。

しかし当時の日本人は、まだかろうじてオリジナルへの敬意を持っており、他社もそこそこ売上を積み上げましたが、先陣を切ったヨーカドーの比ではありません。

さすがにそこは流通革命の元祖の自負からか、当時最大規模を誇ったダイエーは、創業者の中内功オーナーが健在で号令をかけます。

「ウチは安売りだけの店じゃない」

歴史の改竄は成功者によくあることで、

「見るは大丸、買うはダイエー」

と安売りで成長した中内功さんの吐いて良い台詞ではありません。

もっとも中内功さんからすれば、メーカーと直接取引をする「中抜き」による「流通革命」こそが本質であるという思いはあるのでしょうが、客の求めに応じて実現した安売りという原点に立てば、悲劇的な喜劇であることはこのときの販促が致命傷になった・・・というより反転攻勢のための足がかりを失ったからです。

ダイエーのとった施策は

「1万円買ったら5%の金券で還元」

というもの。実質同じですが、スーパーマーケットで1万円分も買うことはそうはありません。

当時のダイエーは家電まで取り扱っており、そこからの発想でしょうが、イトーヨーカドーが仕掛けたのは庶民の日常生活への鬱憤を刺激することであり、大型家電の値引きではありません。

セールがはじまり同じ日に両者を取材したことがあります。立地条件が異なるので正確な比較はできませんが、イトーヨーカドー竹の塚店はレジ前に大行列ができて、年末のアメ横か、いまならAKB48の握手会かと思わせるほどの人手で、なにより活気と笑顔に満ちていました。

それから30分後、川口市元郷にあったダイエーに足を運ぶと閑古鳥の鳴き声が聞こえるかのようです。ちょっとしたショッピングモールのようになっており、日頃のこの店はもっと賑わいがありました。

天の邪鬼なわたしはこのとき、このダイエーで「冷蔵庫」を買い商品券をゲットするのですが、保証期間を5年に延長するかという誘いに対して

「ダイエーがつぶれたらどうなるか?」

と問うと、店員は

「そんなまさか」

と一笑に伏します。わたしも洒落のつもりでした。が、現実となります。ちなみに延長保証は、どこかの家電量販店が代行するのでダイエーが潰れても問題はないとのことでしたが、延長はしませんでした。家電製品が壊れるのは初期不良が多いので、1年以上経ってから突然壊れるのはソニー製品ぐらいです※。

※もちろん冗談ですが、ソニー製品は保証期間が過ぎた途端、壊れることが多いと噂され、それを「ソニータイマー」と呼ばれていたことにかけております。

その他の理由もありますが、このときの年末商戦での惨敗が、その後の破綻へ続く迷走の引き金です。

販促企画が与える影響の大きさをここに見ることができます。

消費税が増税され、再び還元セールを実施したとして、同じことが繰り返されるわけではありません。

しかし、どうして法律をもって禁止までする必要があるのでしょうか。

表向きの理由は「下請けイジメの防止」です。

商取引の現場を知らないとピンと来ないでしょうが、下請けイジメはすべての業種で常態化しています。小売業だけではありません。こんな話しをどう思うでしょうか。

ある企業が運送会社に荷物の運搬を依頼しました。運送会社は任務を完了し請求書を発行します。支払日になりました。運送会社は依頼主に呼ばれこう切り出されます。

「運賃半額ね」

お願いではなく通達です。仮に1万円で請け負っていた仕事が、支払日になって5千円にされるのです。契約不履行で裁判をすれば運送会社の勝訴は揺るぎありません。契約は書面があればベストですが、口約束でも成立し、請求書を発行していれば尚更です。

しかし、運送会社がこの値引きというより、利益の強盗を飲まなければ依頼主はこう告げます。

「じゃあ次から別の会社に頼むから」

次の取引は新しい契約で、従来の運送会社に頼まなければならない法律の規制はありません。実際には「優越的地位の濫用」にあたりますが、前回の値引きの強要との因果関係の立証の前に立ちはだかるのが自由契約の原則です。誰と契約しても良いという前提で、自由経済は成り立っています。実際の現場ではもう少し巧妙に行われています。

運送会社なら配送時間にわずかでも遅れたことのペナルティとしての減額を、運送会社から申し出た形とするのです。飲食店が料理のなかに、虫やちいさなゴミがはいっていたとき、謝罪の上、その代金を受けとらないというのと形式としては同じにします。

なかにはこうして減額させた差額を懐にいれて脱税している運送会社も実在し、わたしが知っている事例はすでに時効を迎えていますが、いまなおその会社は地域の名士として一定の尊敬と、事実を知るものからは怨嗟が集められています。

小売業の場合はもう少し複雑です。取引上の売買は通常に行われながら「販売協力費」という名目で、現金の上納が行われていることは日常的です。取引品目以外を「おまけ」として大量に献上することもあります。少し前の社会問題として取り上げられましたが、棚卸しや販売現場に社員を供出させるケースもありました。

すべて「優越的地位の濫用」で現行法で十分対処できます。いわゆる「独禁法」に規定されており、さらに「下請代金支払遅延等防止法」もあり2003年には強化もされています。

つまり、対処できていないのは法の不備ではなく、運用に問題があるのです。

消費税増税後の還元セールの禁止における「下請けイジメ」とは、取引業者が代金に増税後の消費税率アップを認めないことを防止するためとあります。

消費税は国の制度で、取引先が勝手に断れるものではありません。ならば、仕入れがわのスーパーマーケットが税率をアップした請求書を認めない、ということが発覚した時点で

「国家転覆罪(内乱罪)」

で企業を根こそぎ潰してしまえばよいだけのことです。

日本人にはピンと来ないかも知れませんが、例え民主主義の国家で、自由経済を標榜していても、社会秩序を乱す企業を潰すだけのスーパーパワーを国家はもっているのです。先日仮出所した堀江貴文元受刑者が、社会システムというより秩序を徴発したこで「目をつけられた」というのは本当のことで、検察の暴走や権力の横暴と批判することは統治機構への甘えに過ぎません。

増税分の拒否とは、下請けイジメと矮小化すべきではなく、税制という国家の基盤を壊そうというあるまじき行為であり、この取り締まりにこそ国家のスーパーパワーの発露たる「法」を使うべきなのです。

反対に「消費税還元セール」のような、民間の裁量の範囲、自助努力でできることを法で規制することこそ、自由経済の国家であってはならないことです。

つまり

「消費税還元セールのために下請けに値引きを強要することは取り締まっても、自腹を切ったセールという商業活動を阻害してはならない」

ということです。統制経済じゃないのですから。

拡大解釈すれば「表現の自由」への規制です。増税へのアンチテーゼとして、自腹を切る。という表現です。増税されても税金は納める。しかし、勘に障るから自腹を切ってコケにして、お客にカタルシスを与えることで「庶民の味方」という表現者を目指すことを規制してはなりません。

日頃、児童ポルノに対しても表現の自由をゴリ押しする連中が本件に沈黙しているところにもまた、日本の表現の自由の底の浅さを見つけます。結局、安全が保証されたなかで、自分への利害が単純化された理解の中で求める表現の自由なのです。わたしが彼らを嫌悪するのはこれが理由です。

さらに国家の介入を嫌う左翼系、市民団体あがりのジャーナリストもこれに噛みつかないのも同じ理由。よく言えば等身大、正しく表記すれば思考の浅さです。

もっともテレビメディアこれに踏み込まないのは、日頃から製作会社などの下請けイジメを体質とするから。むしろ

「なにそれ? なにが悪いの」

といったところ。

還元セール禁止法、いや

「自由な経済活動を阻害する法律」

とは天下の悪法です。軍靴の音が聞こえるとはいいませんが、国家が健全な商取引を法を持って禁じる、これが拡大解釈されれば統制経済は目前です。

というより、庶民の娯楽のひとつである

「政府批判」

を封じることなど、許されるのは中国と北朝鮮、あとはイランなどぐらいです。

そして天下の悪法を素通りさせようとしている責任はメディアにもあります。特に新聞業界は「軽減税率」というおこぼれを貰うために批判の刃をさび付かせています。

総務省としても今後8%を10%、さらには15〜18%ぐらいまでは視野にはいっており、森永卓郎や共産党を除けば、20%前後までの消費税は射程距離というのが通説です。すると、この悪法をもって言論封殺して、今後の批判封じの布石を打っているというのが正しいところでしょう。

2004年に消費税の総額表示を義務づけたことで生まれたひずみやゆがみのツケを今回の悪法で、政権奪還で図に乗っている自民党に支払わせようとしているのでしょう。税別表示なら、下請けイジメは明らかとなるのに、総額表示にさせたがために生まれた下請けイジメともいえます。

まずは総額表示を撤回し、下請けイジメには厳罰を持って当たる。

いわば「本筋」に沿えば簡単なことを、自民党が実施しようという背景には自民党なりの事情もあります。

それは先の消費税増税と、その後の還元セールにより悪玉に祭り上げられ政権基盤が揺らいだこと。これを繰り返したくない、トラウマからの言論封殺です。

自民党は変わりました。より悪く。批判の声にニタリと笑みを浮かべて我が道を行っていたころより陰湿になりつつあることに警鐘を鳴らしておきます。

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