プリンの作りかたも叡智の結晶

 我が町、足立区やお隣の葛飾区の小中学生にとって夏休みは今週いっぱいで終了します。脱「ゆとり」のための授業時間確保のために、夏休みが削られたからです。さらに2年前から、月一で土曜日の授業も復活しています。

 おおよそ各週休二日ぐらいの授業時間は確保できるようになりましたが、果たしてこれで学力向上が期待できるかというと微妙です。

 「授業の質」についての議論が置き去りにされているからです。

 ゆとりの引き金となったとされる(実際には教師という名の公務員の労働環境改善のためですが)、「詰め込み教育」は本当に問題だったのでしょうか。

 少なくとも詰め込みに耐えられるか否かの「篩い(ふるい)」の効果はあったことは事実です。暗記偏重と安易に批判するものも少なくありませんが、基礎知識の類は暗記以外で身につけるほうが、手間と時間がかかります。「九九」などその最たるものです。

 暗記以外の方法で「九九」のメリットを享受するには、係数の概念から教えなければならず、その論理的理解を、一般的にかけ算九九を学習する、小学2年生に求めるのは残酷です。

 別の例えをするなら、ボールを投げる、受けとるという動作を学習させるには反復練習がもっとも効果的で、運動生理学や人体の構造からボールを投げるという行為を理解させるのは困難だということです。

 反対の「ゆとり」はどうだったか。学力低下という形で結論はでています。しかし、その結果は何が原因でもたらされたのか。授業時間なのか? それとも、教員の質の低下なのか。

 そこへのひとつの回答です。
 教育、とりわけ「実学」であり、なおかつ

「また、間に合う! 夏休みの自由研究」

 の特別号です。

 こんな勉強、社会に出てから役に立たない。
 誰でも一度は思うことではないでしょうか。

 確かに微分積分といった高等数学が実社会で役立つ場面はないでしょう。それなのに勉強するのは大学受験のためではありません。最大の目的はみっつ。

「学び方を学ぶ」
「知らないことを知った体験を得る」

 以前にも触れましたが、学び方はひとそれぞれ。師について教えを請うのが向いている人もいれば、ひたすら独習に努めることが上達の早道の人もいます。反復練習にしても、練習の意味を知ることで学習速度が上がるものがいれば、感覚的な習得が得意な人もいるようにです。

 これが、社会に出てから役立ちます。社会に出てからも勉強は続くからです。

 そしてもうひとつが、知らなかったことを知ること。まったく理解不能にみえた公式を徐々に理解していく体験は、職場にも通じます。これはクラブ活動などでも代替できますが、勉強から得ても同じ効果があります。一般論として「大卒」が優秀と考えられるのは、この経験も大きいといえるでしょう。

 最後の勉強の目的は裏表ですのでひとつにまとめました。

「適性がないと気がつく、そして苦手を凌ぐ処世術を身につける」

 勉強に不向き、あるいは高等数学にどうしても馴染めないと気がつくことで、その道を選ぶ不幸から逃れることができます。また、人生において苦手分野、苦手な人、苦手な料理と出会わないことは困難で、幾度無く「困難」に対峙することがあるでしょう。そのとき、どう「凌ぐ(しのぐ)」のかを学ぶ機会が教育でもあるのです。

 平易な言葉に置き換えれば

「終わっていない夏休みの宿題を抱えたまま迎えた二学期の初日」

 にどう対応するかです。アニメ「サザエさん」では、例年この時期に、波平やマスオに宿題を手伝わせるカツオの姿が描かれますが、カツオはこの経験から人を動かすコツを学習することでしょうし、親兄弟が手伝ってくれない環境で「サザエさん」を見ている小学生は、生まれ落ちた環境の理不尽を体感し、白紙の漢字ドリルを前にどう対応するかが迫られます。

 と、ここまではおもに高校生以上の勉強について。

 小学生の勉強には無駄なものなどありません。すべて不可欠です。

 国語はもちろん、社会は一般教養の基礎どころか、先週とりあげた古市憲寿はもちろん、橋下徹や津田大介、山本太郎はそのままずばり過ぎますが、歴史や現代社会(公民)を学んでいれば、

「戦争を知らなかった」
「原発を知らなかった」

 などと口が裂けても言えなくなります。戦争は人類史であり、現代史や公民の分野で原発は避けて通れません。

 とりわけ算数は社会にでてもっとも役立つ学問といって良いでしょう。小学6年生の甥は分数と割り算、割合が苦手です。お気づきでしょうが、みな同じものです。

 話をしていて気がつくのは、「分母の変化」で戸惑っているようです。学問的にこの表現で正しいかは分かりませんが、分母は「1」であると学ぶのに、三分の一や、百分の5のように数字が変化するからです。

 彼らの頭の中では、1+1が100+100に変化すれば、答えが変わると考えるのです。分数や割り算が苦手な子供の多くが、この罠にはまります。あるいは学生時代は数式を前に、条件反射で回答していただけで、感覚的に分数を理解していないひとも多く、こうした人は料理が苦手です。4人前のレシピを3人前としてアレンジできないからです。

 そしてその料理こそが・・・お待たせしました。
 ここから「自由研究」です。

 プリンを作りましょう。という話し。

 レシピ投稿サイト『クックパッド』で拾ったプリンの作り方で、もっとも簡単なものを紹介するとこんな感じです。

1:カラメルソースを作る
2:プリン液を作る。
3:容器に入れて茹でるか蒸す
4:冷やす

 カラメルソースとは「焦がし砂糖汁」です。水に溶かした砂糖を色がつくまで煮詰め、それをお湯でのばしたものです。

 まず、ここで「砂糖は焦げる」という物理変化を学びます。小学生の自由研究なら、物理式まで追究する必要はないでしょう。

 続いてプリン液。牛乳250g、玉子2個、砂糖大さじ3杯。これをひたすら混ぜ漉し器でこします。

 すると「からざ」などが残るので、しっかり混ぜたつもりでも、不純物が残ったという事実を持って、表面から見ただけでは分からないことがあるという教訓を引き出すことができます。

 容器にカラメルソースをいれ、静かにプリン液を流し込みます。しばらく待つと両者は二層に分離します。同じ液体を同じ容器にいれても分離するのは「比重」です。冷蔵庫においた、ドレッシングや焼肉のタレが「色分け」されているのも、水と油分の「比重」の違いです。

 茹でても蒸しても良いのですが、2回に分けて、一度失敗させることで自由研究に深みが増します。まずはお湯が沸騰してから弱火にしたもの、もうひとつは強火のまま放置したもの。条件で異なりますが、だいたい10分ぐらいで火を止め、同じ時間放置したらできあがりです。

 前者は「プリン」として仕上がり、カラメルソースとプリンの本体はしっかり住み分けされていることでしょう。一方、後者は両者が混ざり、食感は固くなっています。混ざる理由は「対流」です。

 激しい熱を加えると、容器内で対流が起こり中身が攪拌されるのです。一方、弱火にすると、じわじわと熱が加わり対流は起こりません。つまり熱の加え方が、仕上がりに大きく影響するということです。

 プリンの反対で、対流により美味しく仕上がるのが「ご飯」です。炊飯器の中で激しく攪拌されることにより、均一な炊きあがりになるのです。攪拌されなければ、熱源との距離により「ムラ」ができます。

 食感が固くなるのはタンパク質により、強火と弱火の違いは、半熟玉子と固焼き玉子の違いに見つけることができます。

 あら熱を取った生ぬるいプリンと、充分に冷やしたプリンの食べ比べてみるのもよいでしょう。温度による甘さの感じ方の違いを学びます。清涼飲料水を温めて飲むといった発展も良いでしょう。冷たいジュースを欲する夏場だからこそ、そこに含まれる「糖分」の多さに驚いたと記せば、先生もフムフムと頷きます。

 これらは理科のアプローチです。料理とは理科といっても良いでしょう。詳しい理屈は中学高校、そして大学に行って学びますが、基礎の部分は小学生で学ぶものばかりです。

 さらに研究を発展させます。

 すべての食材をスーパーマーケットの「特売」で揃えたとします。

牛乳1リットル:138円
玉子(1パック):88円
砂糖(1キロ): 98円

 先のレシピ分を計算するとだいたいこうです。

牛乳250ml  :34.5円
玉子(2個)   :17.6円
砂糖(おおさじ3)
+カラメルソースも同量として
         : 6.24円

 合計58.34円でおおよそ250gのプリンができるとして、楽天市場で調べた「グリコ Bigプッチンプリン 170g」の価格が最安値で137円。

 両者を比較する上で、必要となるのが算数(数学)で、プッチンプリンに揃えれば、

自家製プリン : 39.6円
プッチンプリン:137円

 自家製プリンに揃えれば

自家製プリン : 58.34円
プッチンプリン:193.41円

 となります。

 最後は「社会」です。

 どうして両者にこれだけの価格差が生まれるのか。物流などの諸条件は割愛します。しかし、ここまで辿り着いた子供なら、体感している理由があります。それが

「手間賃」

 です。料理になれていれば、カラメルソース作りから蒸し上がりまで1時間もかかりません。しかし、初めて取り組む子供なら、2時間は見ておいた方がよいでしょう。そして近所のスーパーやコンビニの求人広告を確認させます。時給を800円として2時間かかれば1600円が原価に加算されます。すると以下のようになります。

自家製プリン :1639.6円
プッチンプリン: 137.0円

 コストパフォーマンスはプッチンプリンの圧勝です。

 ここから導き出される感想を文章にまとめて「国語」です。

 国語、算数、理科、社会。そして家庭科まで含めた自由研究の完成です。

 算数は算数、理科は理科、ではなくすべてが「人類の叡智」。
 戦争や原発だけではありません。

 もちろん、プリンの作りかたも叡智の結晶です。

 プリンひとつから多くの学習効果を得ることができます。
 これこそが「教育の質」なのではないでしょうか。

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