拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々(書評)

 国会で民主党 緒方林太郎衆院議員が「拉致を使ってのし上がったのか」と安倍首相を詰問した「ネタ」としても注目を集めた本書。

 さて、その緒方林太郎とは、もと外務官僚で、国会の場で首相を追及するのであれば、古巣を訊ねて新事実でも突きつけたのならともかく、本に書かれた内容を確認するすがたは、まるで編集者です。

 話題の本なので紹介はしますが、購入まではお勧めしません。

 著者の蓮池透氏は、当事者のようでいて微妙に部外者。

 拉致被害者の蓮池薫氏の実兄であり、拉致被害の「家族会」の事務局長を務めており、その立場において書かれていることは、少なくとも彼が感じた上においての事実なのでしょう。

 しかし、本書は推測による記述が多く、推測の裏とりもしていません。表題にもなっている「見殺しにした」とは、北朝鮮の主張する「一時帰国」に反論し、「北に返さない」と弟を筆頭とする被害者の説得に当たったのは自分だけだとする主張です。

 確かにその記述は、被害者本人 蓮池薫氏による『拉致と決断』で、一時帰国時の状況が語られています。

《日本に引き留めようとする家族たちとも「戦わ」なければならなかった。予想したとおり、兄は帰国初日から、日本にとどまるよう強く迫ってきた。》

 兄弟で声を荒らげ、母親が悲しむ場面も描かれ、しかし、最後は自分が決断したと記しています。

 良くも悪くも「兄貴」なのでしょうが、声を荒らげ説得に当たらなかったとして、それを政治家が冷血である証拠とするなら、いささか短慮というか浅はかです。

 また、所々にパヨクというか、伝統的左派の匂いがちらつきます。

 著者は否定しますが、政権批判が目的であるとは、読後の率直な感想、つまり緒方林太郎の指摘する「拉致を使って」とは、まさに彼の所属する民主党お得意の「ブーメラン」が著者自身に突き刺さるのではないかと。

 例えば、ちょうど一年前の後藤健二、湯川遙菜氏のISによる拘束事件への対応を批判する理由を、常岡浩介氏や中田考氏を挙げ

《民間のチャンネルを完全に無視していたからである》

 と結びます。民間のチャネルとはいいますが、親ISともとれる二人を利用した代償を、果たして国民は甘受するのか、という視点がありません。そもそも、拉致された蓮池薫氏と、自ら渡航した湯川遙菜氏は異なります。

 また、救う会の活動を「右翼」と決めつけ、またそれに対する嫌悪感を隠しもしません。私見だからそれは構いませんが、巻末にジャーナリストの青木理氏と特別対談をひとつの補助線とすると、やはり政権批判という実像が浮かんできます。

 青木氏は知人の新聞記者の言葉を以下のように紹介し、同意します。

《朝鮮半島に関して日本は、戦後ずっと「加害者」の立場だった。つまり常に反省しなければならない立場だった。ところが拉致問題は、戦後初めて日本を「被害者」の立場にし、それを機にして鬱屈していた憤懣(ふんまん)や、潜在化していた差別意識などが吹き出してしまったのではないか。そういうのです。》

 左翼は本当に、加害者、被害者、敵味方の線引きが好きですが、そこに「差別」をすかさず滑り込ませるのも青木理氏に顕著な手法です。

 そしてこの対談を見る限り、青木理氏はもちろん、著者の蓮池透氏も「どちら」の立場に立っているかは一目瞭然。

 本文のなかでは否定的に紹介していた、元外務官僚の田中均氏についても、青木理氏がネタ元と明示してエピソードを語っても、そこに踏み込まない。

 そこから著者は、状況により言葉を変える人の可能性も生まれてきます。そして「当事者ながら部外者」という評価が芽生えてきたのです。

 安倍晋三(首相)が嫌いならご一読を。安倍政権批判の急先鋒「講談社」の本というのももう一つの補助線。だから、鵜呑みにするとブーメランがささるリスク大です。

■拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々
http://www.as-mode.com/check.cgi?Code=4062199394

なお、こちらが蓮池薫氏の著作紹介

■拉致と決断 蓮池薫著
http://www.miyawakiatsushi.net/?p=1744

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