日本人を舐めたアマゾンの迷走

 アマゾンの「読み放題」サービス「Kindle Unlimited」が注目されています。悪い話題です。

 鳴り物入りで、書籍から雑誌までの「読み放題」をはじめたところ、すぐに幾つかのコミック誌が読めなくなったとクレームが報告され、先月末の9月30日には、講談社が提供する電子書籍のすべてが読めなくなりました。

 講談社はアマゾンに抗議し、既存メディアがニュースとして報じます。

 商取引に付き、漏れ伝わる情報からしか判断できませんが、アマゾンはKindle Unlimited(キンドル・アンリミテッド)を普及させるため、電子書籍に及び腰の出版社に対して、年内に限りながらも通常よりも高い利用料の支払いを約束していたとされます。

 読者はもちろん、出版社にもメリットがあるとわかれば、普及に弾みがつくという目論見ながら、上積み分の予算はすぐに枯渇し、年内を予定していた上積み払いは、9月で終了したと朝日新聞が報じます。

 講談社の他にも光文社など、複数の出版社の電子書籍が読めなくなっております。

 この報道を受けて、コメンテーターの水道橋博士は

「そうはいってもアマゾンを憎めない(要旨)」

 とテレビ東京「モーニングチャージ」で擁護。ネット上でネトウヨ批判を繰り返しているように、社会の趨勢、トレンドを見る力を失っているのでしょう。哀れです。

 朝の6時40分から7時5分までの25分という中途半端さは、直後にはじまる子供番組「おはスタ」まで繋ぎなのでしょうが、同局夜の企業宣伝番組「ワールドビジネスサテライト」の人気コーナー「トレンドたまご(トレたま)」を切り出し、劣化させたような内容で、朝から企業臭が鼻につきます。

 本件に限れば「読み放題」を謳っておきながら、人気書籍が読めないのであれば「詐欺」とそしられてもおかしくないでしょうに、肩を持つのは企業側です。

 想定外の利用に赤字覚悟で補填するのではなく、利用者に約束を反故にし不便を強いていながら、アマゾンの肩を持つ水道橋博士という人物の、向いている顔の方向が見えます。

 なお、共演していたタレントの西村和彦も、同じ意見でしたが、彼は動画配信サービス「Amazonプライム」でのトラブル対応という論拠を示して擁護していたので、この限りではなく、契約とかそういう大人の事情に疎いだけかも知れません。

 契約の視点で見れば、アマゾンとて「嘘」による「詐欺」を働いたとはいえません。利用規約の冒頭「本プログラム」の説明にはこうあります。

“当サイトでは、随時本プログラムにタイトルを追加し又はプログラムからタイトルを削除することがあり、また当サイトは特定のタイトルの利用や利用できる最小限のタイトル数を保証するものではありません。”

 ネットサービスの誰も読まない規約に、サービス提供者に有利に働く文言が入っているのはお約束で、法的責任はこれで免れられる狙いがあるのでしょう。

 しかし、講談社や光文社といった出版社単位での「削除」は虚偽に近く、また個別の電子書籍としてはキンドル本として提供しているのです。

 限りなく「優良誤認」が疑われる事例で、一日も早い消費者庁の対応が待たれるところです。

 それではなぜ、こんなことが起きたのか。

 PCデポの高齢者詐欺騒動のとき、東証一部上場企業なのにという批判がありましたがこれは筋違い。上場企業とは金集めが美味さを競う大会におけるサイヤ人のようなもので、極論を述べれば実業以外での金集めが上手い人が参加する市場です。

 アマゾンは米国NASDAQ市場に上場するメジャープレイヤー。スーパーサイヤ人です。金集めと、集めた金の使い道のプロです。日本よりも厳しい、メジャー、米国市場の株主は、無駄金を許してはくれません。

 アマゾンは上場以来、ずっと赤字の珍しい企業ですが、それは先行投資や、開発費用がかさむからで、目的のある投資の結果の赤字は、それを良しとする株主により支えられます。

 今回の出版社への上積み分とは、つまるところ「販促費」であり、仮に販促費用を上回る新規契約数があるならば、予算増額も妥当な判断ですが、そうではなかったということでしょう。

 これ以上の販促費の上積みは「無駄金」になるという判断です。

 ではなぜ、こんなコトが起こったのか。

 それは日本人の異常なまでの好奇心を見誤ったのでしょう。タダで読めるからと、興味の対象外の書籍まで渉猟する読者の存在を想定していなかったと考えられます。

 自分の時間を、自分の興味のためにだけ使う、欧米のインテリ層と、余計な情報にも首を突っ込む中間層どころか、低所得者層まで漫画を含めた本に親しむ日本人との違いです。

 日本人からすれば当然のこと。毎週、週刊文春しか買わないとはいえ、コンビニにならぶ「新潮」をペラペラとめくる客は珍しくありません。

 さらに手を伸ばして「週刊SPA!」や「週刊プレイボーイ」だってあるでしょうし、コミック誌で「週刊少年ジャンプ」の愛読者であっても、「週刊少年マガジン」の「DAYS」、「週刊少年サンデー」の「Be Blue」を立ち読みする「サッカー漫画ファン」もいることでしょう。

 また、電子配信です。ちょっとエッチな漫画や雑誌を、人目を気にせぬ立ち読み感覚で読むユーザーもいるでしょう。

 リアルではコンビニが負担していた、こうした「情報窃盗コスト」をアマゾンが担ったのです。むろん、アマゾンの読み放題においては完全なる合法です。

 実際、私もドコモが提供する雑誌読み放題サービス「dマガジン」に加入しており、もともと立ち読みはほとんどしませんでしたが、いまではほぼ全誌の「流し読み」をしています。週刊朝日やサンデー毎日だって、毒づきながら読み流しています。

 なお、「dマガジン」でも提供されていますが「週刊新潮」だけはいまも「紙版」を購入しています。頑張れのエールを込めて小銭をチャリンと。

 永らく「本=活字文化」が特定のユーザーに支えられた一部の嗜好品である欧米と、庶民に至るまで瓦版に親しんだ国民性の違いをアマゾンは見誤ったのです。

 一連の迷走と騒動への本心は、ざまぁ。

 著者という本の作り手側としての本音です。

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